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『江戸しぐさ事典』、壇蜜は芸能界のルネサンス?

『江戸しぐさ事典』(三五館)を読んでいます。小説ではなく事典を読む、という表現に違和感をもつ方もおられるかもしれませんが、ここのところメディアに出ずっぱりの壇蜜が売れているのは「『江戸しぐさ』のお手本」と褒めちぎっている「日刊ゲンダイ」(3月12日付)の記事を見て、まあとにかく「江戸しぐさ」を自分も知ってみようと思い、事典を読んでいるわけです。

記事のタイトルは「男 壇蜜になれる人 なれない人」

記事によると、壇蜜が売れているのは「単なる美人ではなく、雰囲気と仕草の美人だからです」(作家の夏目かをる氏)だそうです。
「私は、作家のリリー・フランキー氏やみうらじゅん氏も、男・壇蜜だと思います。彼らの対談記事などを読んでいると、非常に相手への気配りが感じられます。無精ひげで髪はボサボサ、一見とっつきにくい感じですが、見た目とのギャップに女性は騙(だま)されるのです」(ライターの佐藤留美氏)
壇蜜も、英語教員の免許がある「インテリ」ながらユーモアのセンスもある。そんな“お高く留まっていない”ところが「江戸しぐさ」というのですが、いかにも後付けの分析に感じました。

以前から大学出のタレントはいくらでもいます。だいいちそういうことなら、壇蜜(彼女はいったん本名でデビューしています)と名乗って今のような路線に走る前にどうして売れなかったのでしょうか。

もっとも、「後付け」と決めつける前に、では「江戸しぐさ」とは何か、ということを確認しておく必要があると思い、『江戸しぐさ事典』を読むことにしたわけです。
江戸しぐさ事典
同署によると、江戸しぐさとは、商人や、人の上に立つ者としての心得であり、相手を思いやり、コミュニケーションを円滑にする知恵が詰まっている、ということです。

その骨子を引用します。

「目の前にいる人は仏の化身と思え」(人間は平等)
「時泥棒は弁済不能な十両の罪」(相手の時間を勝手に使うのは10両盗んで死罪になるよりもっと重い罪だ)
「三税の教えを守れ」(年齢や肩書、職業などに頓着しないで人とつき合え)
「遊び心を忘れるな」(仕事をするだけが能ではない)
「口約束を守る」(証文があろうがなかろうが、約束は果たす)
「見てわかることは言わない」(見てわかったら行動で対応しろ)
「結界覚え」(専門家を大切にする)
「その人のしぐさを見て決めよ」(取引相手にするかどうかは実際にあってしぐさを見て判断する)
「尊異論」(違う意見の持ち主を大切に)

一通り見たところ、現代社会においてはできることとできないことがあります。

「できないこと」は、ルール・契約に関することです。

たとえば、「口約束を守る」というのは現代社会でも信義という点で当然です。が、残念ながら相手にもし嘘があったり不作為があったりしたら、こちらも自分を守るために「口約束」であることを理由に約束の履行をストップせざるを得ないことだってあります。

美学と実際の損失をはかりにかけて、背に腹は代えられないということはやむをえません。

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それ以外のマナーや心がけは、おおむね「できること」として大いに採り入れたいと思いました。

たとえば、「尊異論」はこう書かれています。
【少数意見を尊重する】有能な番頭は、小僧たちの意見をよく聞いた。
 あるとき、小僧たちが「街中で流行りの反物をうちの店でも売りたい」と番頭に訴えた。多数が同調した。
 しかし一人の小僧だけが、「この反物は品質が悪い。すぐに破けてしまい、またお客様が買い直すことになる」と違う意見を述べた。
 番頭はその一人の小僧の意見を採用した。たとえ皆と違う意見であっても、よいと思う意見は取り入れたのである。
 三井越後屋は毎月一回、従業員を集め、町のさまざまな情報を聴きとった。接客を通じて、あるいは耳に入った町の噂が次の戦略に有効だったからだ。
 なんでも多数決で物事を決めるのが民主主義という考え方が強い。
 しかし、ビジネスで新しい戦略を仕掛けるには多数決は向いていない。責任の所在がうやむやになってしまう。赤信号でも「みんなで渡れば恐くない」というセリフがその実態を物語っている。
 皆が賛成するような案件は希少価値がない。マーケティング戦略から言えば、少数意見のほうにビジネスチャンスがむしろあることを江戸の経営者は知っていた。
私は毎度書いているように「人間は間違いうる」生き物だと思っています。「みんながそう思っている」から実践したほうがいい場合と、「みんながそう思っている」からといって正しいかどうかはまた別、という場合とがあると思います。

マーケティングはどちらかというと前者かと思っていましたが、なるほど、そういう発想も大切だな、と考えさせられました。

「人のしぐさを見て決めよ」についてはこう書かれています。
【身なりや待ち物でなく、しぐさで判断する】取引先として信用できるか。人生のパートナーとしてふさわしいか。そんな判断をせざるを得なくなったときは、「人のしぐさを見て決めよ」。これが江戸しぐさ流の答えだった。
 江戸しぐさは身体に癖になって染みついていて、さまざまな状況の中で、その人の本質が反射的に出るもの。だから、江戸の町衆は身なりや持ち物でなく、しぐさで競った。
 身についたものだから、いつでもどこでも表現できるし、裸になってもメッキのように剥げることはない。しぐさにはその人物のすべてが反映する。
 企業経営には浮き沈みがある。当座は業績不振でも、舵取りをしている経営者の人格、見識が優れていたら取引すればいい。逆に今、業績が絶好調でも経営者に驕りが見えたらお断りだ。永年の経験から生まれた知恵だった。
 結婚相手を選ぶのも、本質的には同じこと。
最近は傾向が変わったそうですが、以前は結婚相手の条件が「三高」なんていわれた時期もありましたね。そこにはおそらく、「身なりや待ち物でなく、しぐさで判断する」という発想はなかったと思います。

これもまた面白いなあと思いました。「芳名覚えのしぐさ」です。
【名前は聞かないのが江戸のマナー】芳名とは相手の名前(実名)のこと。江戸講で初対面の人と会ったとき、「お名前は?」といきなり聞かなかった。
 まず、両隣の人の名前を覚え、次に正面の人とその両隣の人の名前を覚えた。それもだれかがその人の名前を呼ぶのを、聞き耳を立てて知った。
 現代では、会合が始まると同時に、「まずは各自の自己紹介から……」となるが、江戸しぐさではそういうことをしなかった。非合理的に思えるかもしれないが、これは「観察力」や「気配り」を鍛錬する格好の場と考えていた。本名は本人と同じ重みを持つものとされ、綽名(あだな)には権力と距離を置く効果があった。ふだんはニックネーム(通り名)で呼んだ。
相性やあだ名で呼ぶことは現代のビジネスマナーとしてどうかと思いますが、観察力の鍛錬という点では興味深い話です。

『江戸しぐさ事典』には、こうした「しぐさ」が他にもたくさん出ています。それらに貫かれているのは、観察力と自らに対する矜持、他者に対する思いやりなどとともに、現代合理主義に対する懐疑的な発想です。

現代を否定する……。といってももちろんそれは江戸時代に時計の針を戻そうということではなく、発展はしつつも、見落としたり忘れてしまったりした文化に改めて光を当てるルネサンスであると私は解釈しました。

ということは、壇蜜も芸能界のルネサンスなのでしょうかね。

江戸しぐさ事典

江戸しぐさ事典

  • 作者: 桐山 勝
  • 出版社/メーカー: 三五館
  • 発売日: 2012/09/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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コメント 24

muk

江戸しぐさ。道徳の授業で子どもたちに教えました。
みんな人に対してやさしくなりました。
相手を思いやる気持ちから来るしぐさだと思っています。少しずつはやり始めたようですね。
当時の江戸はものすごい人口密度で、人と人がうまく生きていくための気配りだったようです。
粋かどうかで生きる江戸時代の人々の気概は楽しいですね。
現代はどうも世知辛いような気がします。
by muk (2013-03-20 04:29) 

ゆうのすけ

なんか不思議な感じがする壇蜜さん。
熱烈と言うわけではありませんが 何処となく 粋な感じに惹かれるって言うのも 江戸しぐさの なせる技なのでしょうね。

こちらもまた不思議だったのですが 崩しすぎてしまわれたのが 黒木香さん なのではと。。。^^;

私の年齢的なものもあるのでしょうが 以前は かなり見られた この線の方が 少なく感じるのがちょっと寂しいですね。(人のこのみもありますが どうも 大人気の 最先端の若い子の芸能人やってます!っていうのに ついて行けなくなりました。と言うより 興味全くなし!^^;) そんな中での壇蜜さんは ”異色”で 目を奪われるんですよね。(^^)
by ゆうのすけ (2013-03-20 04:31) 

pandan

しぐさってやっぱりポイントですね。
by pandan (2013-03-20 05:22) 

獏

観察力 洞察力の鍛錬が
自分も含めて必要な気がしました(@@;))

by (2013-03-20 08:17) 

おっつぁん

壇蜜・・・・
男にだまされたみたいな薄幸そうな顔がいいんじゃないですか。
by おっつぁん (2013-03-20 09:11) 

まめ

なるほどねぇ、落語で出てくる名前があだ名なのはそういうところ
が大きいんでしょうかね。
個人的にはなんと呼ばれようともかまわない(旧姓でもOK)人
ですが、あだ名の方が実はうれしかったりw
by まめ (2013-03-20 09:36) 

NONNONオヤジ

何だか欧米風の合理的な人との付き合い方とは逆のような気がしました。ごく自然に気配りのできる人は素敵ですね^^。
by NONNONオヤジ (2013-03-20 09:49) 

mwainfo

「雰囲気と仕草」が優雅になれば、人格が円満になります。女性なら、どことなく花のある雰囲気が漂います。
by mwainfo (2013-03-20 09:49) 

ebisu

江戸しぐさは現代にも生きていますね。
私は団塊世代ですが、40歳のころに知り合って一緒に仕事をした経営者は「口約束が一番重い」と言って、仕事上で大事なことは書類にせずあえて口約束をしていました。
もちろん、相手を見てのことです。「しぐさ」が信用できたら、あとは口約束でした。
by ebisu (2013-03-20 10:30) 

JUNKO

大変興味深く読ませていただきました。
by JUNKO (2013-03-20 10:31) 

サンダーソニア

江戸しぐさと壇蜜がつながるとは思いませんでした。
by サンダーソニア (2013-03-20 10:32) 

やおかずみ

私も江戸しぐさに興味があります。『江戸しぐさ事典』を一度読んでみたいと思います。
by やおかずみ (2013-03-20 10:38) 

繭

壇蜜さんは、まさに仕草美人なんでしょうね。独特の雰囲気も誰とも違うし、静かに居て存在感あるし、煩わしくない存在の仕方っていうか、ゴージャスな薔薇みたいなところはないけど、清楚だけど強かな、風にあおられてもしなやかにして決して折れないような感じだと思います。
私個人としては、女優さんもアイドルも、自己主張が第一でそこに居て「煩い」ってのは苦手ですから、壇蜜さんは別格です((b´∀`))ネ♪
by (2013-03-20 11:03) 

ikamasa

こんにちは。本名を言わずに相手を感じ取る…というのは、相手への思いやりであり、江戸しぐさの意味を凝縮したものではないかとおもいました。壇蜜さんにはしぐさというか相手を喜ばす思いやりみたいなものがあるような気がします。
by ikamasa (2013-03-20 13:32) 

リキマルコ

お久しぶりです!
仕草のきれいな方って素敵ですよね、美しく見えますし。
気をつけなくちゃ(笑)
by リキマルコ (2013-03-20 16:10) 

楽しく生きよう

お祝いありがとうございました。

人としてスマートに生きたいものだと思っています。
by 楽しく生きよう (2013-03-20 16:17) 

beny

「粋の構造」を彷彿させられました。
by beny (2013-03-20 17:11) 

昆野誠吾

面白そうな辞典ですね。
習慣を見よ、とりつくろった行動は
ぼろが出るから本質を見極められる。
なかなか興味深いので早速購入してみます♪
しかし賃貸住宅を扱う者としては、口約束ほど
あてにならないものはない、という感覚です。
大きな金銭が絡むと平気で約束を反故にしますから。
人間の嫌な部分が目立つ業界って悲しいなぁ^^;

by 昆野誠吾 (2013-03-20 19:36) 

ぷち

江戸しぐさ、初めて知りました。読んでみたいと思います。
壇蜜は、うちは好きです。エロスだけでなく、TVでユーモアある回答を言うてたりと、もっと知りたいと思わせる人な気がして興味があります。
by ぷち (2013-03-20 19:55) 

isoshijimi

江戸しぐさ、読んでいて素敵だなと思いました。
ただ・・・自分でできていないことの多さに恥ずかしい・・・。
素敵だなと思えることは自分でもやらねば、と感じました。
by isoshijimi (2013-03-20 21:03) 

しばちゃん2cv

「壇密」って、変な名前と思ってました。
by しばちゃん2cv (2013-03-20 21:24) 

iruka

今も昔も時代背景は、違うけれど
同じなんだと思います。
時代劇で見る江戸
あくまでも物語で
作るりもの
時代考証の番組をみて
そんうなんだと
思う時があります。^^
by iruka (2013-03-20 22:22) 

いっぷく

みなさん、コメントありがとうございました。
壇蜜という人は私はとくに関心は
なかったのですが、みなさんは仕草に着目されていたのですね。
by いっぷく (2013-03-21 05:36) 

さきしなのてるりん

皆が賛成するような案件は希少価値がない。マーケティング戦略から言えば、少数意見のほうにビジネスチャンスがむしろある。この見極めは難しいけれど少数意見を一刀両断に切り捨てるのはやはり違うのだろうと思う。、参考になります。
by さきしなのてるりん (2013-03-21 13:09) 

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