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マウンドに散った天才投手、真の苦労人は苦労を語らない

『マウンドに散った天才投手』(松永多佳倫著、河出書房新社)を読みました。中身は、「プロ野球界に閃光のごとく強烈な足跡を残した」選手たち、ひらたくいえば「球界の一発屋」たちに話を聞いた書籍です。

結論から書くと、少なくともタイトルに期待されそうなドラマチックな展開は読めませんでした。人選も少し違うような気がしました。それでも十分に興趣は感じられました。野球ファンでない方にも感じてほしい点について書いてみます。

マウンドに散った天才投手

『マウンドに散った天才投手』に取り上げられたのは、伊藤智仁(元ヤクルト)、近藤真市(元中日)、上原晃(元ヤクルト)、石井弘寿(元ヤクルト)、森田幸一(元中日)、田村勤(元オリックス)、盛田幸妃(元近鉄)の7人。←球団名は最終所属です。

彼らが、それぞれの事情でユニフォームを脱がざるを得なかった、そのときの話をヒアリングしてまとめています。

まず不満点から簡単に書くと、人選に疑問があります。上記の彼らは「強烈な足跡」を残したときに比べると印象は薄いかもしれませんが、例外なく複数年にわたって実績を残したり、いったん戦列を離れてもカムバックしたりしているので、決して「一発屋」ではありません。

また、「モリタ」は、「マウンドに散った」わけではありません。森田幸一は首脳陣とのいさかい、盛田幸妃は病気(脳腫瘍)が原因でした。

彼らを入れるのなら、たとえば藤本和宏(元広島)とか、森山良二(元西武)とか、藤沢公也(元中日)など、目立った成績がタイトルを取った「1年だけ」の人にした方があっていると思います。

さて、同書は1人あたり約2万字でまとめられていますが、彼らは端々に未練を告白しても、決して「私は苦労したのです」というような同情を乞う話や、当時の首脳陣への恨みつらみを一切話していません。

たとえば、森田幸一などは指導者としても解説者としても球界にかかわる可能性は少ないと思うのですが、それでも彼は当時の不満を暴露という形で吐露していません。

それは書籍の趣旨から見ると物足りない印象を読者にもたれるかもしれません。なぜなら、それを聞き出すための書籍なのですから。

しかし、別の見方をすると、それは、彼らが「野球バカ」から「良識ある社会人」になったことを示すもので、書籍の字面としては物足りないかもしれないけれど、行間は実に興味深いものでした。

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圧巻は盛田幸妃です。彼は脳腫瘍による苦悩話を同書でほとんどしていません。

プロ野球に関心のある人も、彼については「脳腫瘍からカムバックした人」ぐらいの認識しかないと思いますが、「カムバック」は手術してあっさりできたわけではなく、いったんは全く足が動かなかったところから、専属の理学療法士との2人3脚によって、奇跡的にマウンドに復帰できたことを私は別の書籍で読んだことがあります。

世間では誤解があるのですが、脳卒中や脳腫瘍を経験した人の「リハビリ」といわれる行為は、原状回復というよりも、その状態でも社会に適応できるための「可塑力」を鍛えていることが眼目になっています。

盛田幸妃は脳の手術で運動神経をつかさどる回路が切断され、それまでの野球人生で積み上げてきた野球脳と体をつなぐ道筋が壊れてしまいました。ということは、「回復」ではなく1から体得しなければならないトレーニングを経てマウンドに復帰しているのです。

これは、肘や肩など「ピンポイント」の故障からカムバックする人との決定的な違いです。

さらに、彼は現在解説者としてまだ球界と接点を持っていますが、引退後再発して3回手術しており、今も足を引きずる生活だそうです。おそらく現役時代に障がい者手帳を認定されていたのだと思います。彼はもちろん、解説ではそんなこと一言も口にしません。

実は中途障がい者がマウンドに立っていた。野球の読み物としては劇的ですが、彼は「同書で」そういう盛り上げ方を拒みました。

といっても、理学療法関連の書籍では、そういう話を彼はしています。

つまり、野球人としてそれを言い訳にしたくない、ということと、障がい者への情報開示という社会的な使命とをきちんと使い分けて両立しているのです。

私は、そんな彼を見直しました。というか、別に今まで見くびっていたわけではありませんが……。

彼に限らず、苦労を苦労として語らない7人に、私は人として教えられた思いです。

ということで、以下は私の本音です。

書籍などの上梓でも、日常の会話でもいえることですが、自分の抱える悩みや苦しみを他者に述べることは、「述べることによる自己救済」や「同じ悩みを持つ人への情報開示・共有」として、大変意義深いことだと思います。

しかし……、

さも自分がこの世で一番不幸であるかのような主張や、その行間から「同情してよ」という要求が露骨に見えると、申し訳ないのですが、へそまがりの私は内心、疑念を抱くこともあります。

「そんなこと、どうってことねえよ。もっと大変な人はいるよ」という意地悪な反発といっていいかもしれません。

そんな私です。この書籍を読み、改めて、彼らのように、本当の苦労人は自分の苦労を苦労として語らない、という美学を貫きたいと思いました。

マウンドに散った天才投手

マウンドに散った天才投手

  • 作者: 松永 多佳倫
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2013/01/19
  • メディア: 単行本

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コメント 17

kojiyan

こんには
出来ました!!
テンプレートに画像をいれることが、できました。
適切なご指導ありがとうございました。
理屈は訳のわからないままに、出来てしまいました。
これで又一つクリアできましたことを、お礼もうしあげます。
by kojiyan (2013-03-30 14:15) 

chima

>野球人としてそれを言い訳にしたくない、ということと、障がい者への情報開示という社会的な使命とをきちんと使い分けて両立している
これはなかなかできることではありませんよね
by chima (2013-03-30 15:07) 

ryuyokaonhachioj

今日は、朝から雨で寒く感じましたね。
何日か天気も崩れるのかね。桜も散って
ますよ~。
by ryuyokaonhachioj (2013-03-30 17:26) 

くまら

何故かヤクルトと中日が多いような・・・
by くまら (2013-03-30 17:36) 

K

>「そんなこと、どうってことねえよ。もっと大変な人はいるよ」
言いたいですね。もっと余裕を持ちたいです。
by K (2013-03-30 17:49) 

昆野誠吾

本当に苦労したことって自分の宝物。
言葉でうまく言い表すなんて難しい。
変に伝わるのも嫌だし、そんなもんかと思われるような
伝わり方をしても嫌だし。
経験してみなけりゃわからんのよ!って腹の中で思って
いることが何よりで、変に露出して貶めたくないですね(笑
by 昆野誠吾 (2013-03-30 18:02) 

RuddyCat-Lalah

『本当の苦労人は自分の苦労を苦労として語らない』
今回の紹介を読んで、この言葉がとても印象に残りました。
私が一番不幸だなんて嘆いていた自分が恥ずかしくなりました。
by RuddyCat-Lalah (2013-03-30 18:33) 

ナベちはる

「自分はなんて不幸なんだ」と思うことが良くありますが、本当の人は苦労を苦労として語らないという言葉を聞いて、自分は視野が狭いなぁと思いました。
by ナベちはる (2013-03-31 00:41) 

繭

見据えている未来が違うんですね。。
by (2013-03-31 01:51) 

pandan

プロ野球が開幕しましたね。
by pandan (2013-03-31 04:33) 

muk

人間としての自立・自律を感じました。
プロ野球が開幕し華やかな雰囲気ですが、こういう話も大好きです。

by muk (2013-03-31 05:14) 

cheese999

確かに。。
(^_0)ノ
by cheese999 (2013-03-31 06:47) 

tochimochi

>本当の苦労人は自分の苦労を苦労として語らない
痛いですね。
つい愚痴をこぼしてしまう私ですが見習いたいと思います。

by tochimochi (2013-03-31 09:36) 

utamaroco

苦労話とは違うんですけど、息子が高校に合格したとか、ブログに書いたときは急に他のブログを巡回して、おめでとうコメントをおねだりしてるのもハタから見ると意図まるわかりで見苦しいですよ。そんなもん、こっちは書かないとつめたいみたいになっちゃうし、見ず知らずのネットの人にうわべの祝福されたって息子さんも別に嬉しくもないでしょう。
by utamaroco (2013-03-31 09:50) 

yu-papa

nice!&comment有り難うございます(#^.^#)
by yu-papa (2013-03-31 11:35) 

いっぷく

みなさん、コメントありがとうございました。
みなさんのブログにお邪魔した際にまた書かせていただきます。

>くまらさん
>何故かヤクルトと中日が多いような・・・
おっしゃる通りです。本の中で著者は
自らを「中日ファン」と書いています。

by いっぷく (2013-03-31 15:22) 

uryyyyyy

いっぷく さん、こんばんは。

盛田が横浜から移籍した翌年に
横浜が優勝したのは
何か思うことが当時からありましたね。
弱小横浜でも不可欠な存在でしたから。
by uryyyyyy (2013-03-31 21:23) 

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