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『放射線被曝の理科・社会』“信ずべきこと”とする合理的精神とは

『放射線被曝の理科・社会ー四年目の『福島の真実』』(児玉一八、清水修二、野口邦和著、かもがわ出版)を読みました。おりしも、『美味しんぼ福島鼻血騒動』や、福島のお子さんから甲状腺がんが見つかったといった放射線関連の話題でネットはいろいろな意見が出ています。



『美味しんぼ』の原作者・雁屋哲氏が、福島鼻血騒動を蒸し返しました。

原発事故による放射線被曝で、「福島には住めないから危ないところから逃げる勇気を持て」という主張です。

その後、沈静化したかなと思ったら、最近になって再反論の書籍を上梓したとか。

炎上商法には、のらないことがいちばんかもしれません。

ただ、ゆるがせにできないのは、「福島には住めない」論が、福島在住の人に対する差別や風評を煽って被災者を苦しめるものでしかないし、「除染は無駄だ」という断言は、科学を社会に役立て前向きに使うことに対する挑戦にほかならないということです。

私は先日、『福島県下での放射能調査に取り組んで』という安斎育郎氏のレポートをご紹介しました。

『福島県下での放射能調査に取り組んで』より

福島の人びとの被ばく線量はそんなにキケンなのか

地元の除染作業でどれくらい放射線が減るのか、保育園児が事故後の生活でどのくらい被曝しているのかなどを調べたものです。事実上、雁屋哲氏への反証になっています。

『福島県下での放射能調査に取り組んで』より
『福島県下での放射能調査に取り組んで』より

雁屋哲氏や、それに同調している人々は、このがんぜないお子さんたちの前で、同じことが言えるのかなあと思います。

原発再稼働反対者は2派ある

一口に、原発再稼働反対者といっても、実は2派あるようです。

ひとつは、科学的根拠から客観的に放射線汚染を判断しつつ、総合的に考えて再稼働はやめた方がいいという立場。要するに、為政者の都合に関係なく科学な真実本位で回答を出すという立場。

もうひとつは、科学もへったくれもなく、とにかく放射線は怖い怖いと煽って、反対というより否定する立場。つまり反科学であり、かつ反社会的立場。

後者の中には、食品添加物、電磁波、水道水、この世の中の叡智のありとあらゆるものについて頭から危険煽りをしている人たちが混じっています。

雁屋哲氏は、後者の立場を自覚した発言かもしれません。

いかなる価値観を持つのも自由ですが、雁屋哲氏の説は出版物として標榜されているわけですから、科学的におかしいことはおかしいと批判する必要はあるでしょう。

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『福島の真実』はどうなっているのか


同書は、一口に述べると、児玉一八氏、野口邦和氏(放射線防護学者)と、清水修二氏(経済学者)という3人の研究者によって、タイトル通り、自然科学と社会科学の両面で、福島の放射線被害を過大に喧伝することを、学問的立場から反証する書籍です。つまり後者に対する反証的書籍です。

後者の放射線怖い怖い派からすると、それを否定する「御用学者」の書籍というレッテルを貼りたくなるかもしれません。

しかし、同書はこう述べています。
時の政府・権力者にとって都合がよかろうが悪かろうが真理は真理、誤謬は誤謬です。ところが福島原発の事故の後、とくに放射線被曝の影響に関して、それを比較的小さいと楽観的に評価する学者に対し、科学的な論証抜きに、憎悪をこめて御用学者のレッテルを貼る傾向が生まれました。逆に、被曝の影響を悲劇的なまでに強調する論者は、とくにその道の専門家でなくても、無条件に正義派として賞賛される傾向があります。もちろん、悲観的な観測をする学者の主張が何の根拠もないと決めつけるつもりはありません。私たちが問題にするのは、そこに「政治主義的なバイアス(偏向)」がかかっている場合が多いという点です。

その弊害は、低レベル汚染の人々に不安を煽り差別の風潮を作り、科学的に判断する研究者には「隠蔽工作を行っている」という、論難・攻撃につながっているといいます。

もちろん、WHOだろうが国連科学委員会だろうが、その見解が無謬と断言はできないし、検証は否定しません。

しかし、国連イコール(原発)推進派、という紋切り型のレッテルで一刀両断にする行為は「正しくありません」と同書は主張します。

また、原子力発電問題は高度な科学論争で判断すべきことなのに、政治的な意図に基づいた「反原発の思想」は、中国の文化大革命時代の人権弾圧を想起させて最悪だと唾棄しています。

福島の人々がかわいそうだと言いながら、福島を馬鹿にする原発コワイコワイ派にいいたい。

たしかに、福島には今も住民が帰還できない地域があります。

ただ、福島県全体が住めないところではありません。

雁屋哲氏の主張には、そうした区別は全くありません。

また、雁屋哲氏はきやすく福島を避難しろといいますが、実は福島の本当の人的被害は、原発事故そのものではなく、いわゆる震災関連死であることも著者の野口邦和氏は指摘しています。

震災関連死というのは、避難途中、あるいは避難生活で命を落とすことです。

それは福島県が被災県の中で突出して多い。2014年5月には1700人を超えているのです。

根拠のない言説で不安をあおることが、在住者にストレスを与えるだけでなく、新たな被害を生む可能性があるということです。

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安易に煽りに乗らないためには……


最近も、福島で甲状腺がんの子どもが1人いたというニュースで、さっそく被曝のせいだと頑張る論調があります。

がんが3年で発症するものではないことぐらい、医学・医療関係者でなくても今どき医学啓蒙書やネットを見れば知ることはできるのではないでしょうか。

小保方晴子事件でもそうですが、何かあると国民大衆は、多少はあるはずの科学知識やマインドをどこかに置き忘れて、冷静に考えたらありえないことを本気で信じる動揺やロウバイの悪癖が顔を出します。

もう少し広げれば、霊感商法・カルト教団のたぐいにマインドコントロールされるのもそうでしょうね。

9年プラスアルファも学校教育を受けた上に、実社会でも様々な経験を積み、ネットや紙媒体の情報もたくさんあるのに、いともかんたんに非合理にひっかかる。

いったい何なんでしょう。

ひとつは、科学や科学者に対する不信感もあると思います。

もうひとつは、信じたいこと(だけ)を信じる、という根本的な価値観の問題もあるのではないでしょうか。

そこから、信ずべきことを信じる、というマインドの方向転換をしていかなければならないと思います。

私が標榜している「信ずべきこと」とは、『哲学入門』をご紹介した時に結論で書いたように、

豊かな感情と強い意志とによって裏打ちされた高い知性・理性(合理的精神)です。

今回の場合は、やみくもに放射線コワイコワイではなく、科学的にわかっていることに基づいて合理的に恐れるということです。

理性臭をぷんぷんさせた啓蒙なんておこがましいことは重々承知しています。

ただ、真実に到達するには、それ相当の努力や手間暇や知識や我慢などが必要だということだけは述べておきたいのです。

そこから逃げて、安易に感情や流行に依存した判断ばかりしていると、いつまでたってもマスコミや疑似科学に騙され続けることになると思います。

放射線が心配なあなたは、放射線被曝を口実に、反科学的主張をしたいのでしょうか。

そうではなく、放射線被曝の事実を謙虚に知りたいだけなら、これはぜひお勧めしたい書籍です。

放射線被曝の理科・社会

放射線被曝の理科・社会

  • 作者: 児玉 一八
  • 出版社/メーカー: かもがわ出版
  • 発売日: 2014/12/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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