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『落語家見習い残酷物語』忘恩の徒と悪評高い暴露本の真の価値は……

落語家残酷物語

『落語家見習い残酷物語』という書籍が、1990年に出ました。私はそれを読んで、暴露本の意義や存在価値について考えさせられました。一度ブログ記事でご紹介したいと思っていたのですが、ちょうど現在は都知事選のさなかで、党も候補者もマスコミも相手の叩き合戦を行っているので、「暴露」つながりで簡単にご紹介いたします。

『落語家見習い残酷物語』は、金田一だん平というペンネームで、晩聲社という出版社から出ました。

絶版になっているので、アマゾンでも中古品が1万円近い値付です。

もう図書館でも見つけることも困難なようです。

「横断検索」という、都内の図書館を一気に検索するデータベースにもひっかかりませんでした。

しかし、ネット全体で検索すると、現在も同書に関する掲示板のスレッドが出てきます。

http://hobby8.2ch.net/test/read.cgi/rakugo/1114083901/

同書の内容は、以前落語家関係の本をまとめてご紹介した時に触れました。

笑福亭松鶴の祥月命日に思い出す三冊の落語界“暴露本”

上智大学のオチケン(落語研究会)に在籍していた若者が、落語家を志します。

が、深く考えず、尊敬していた落語家ではない6代目三遊亭圓窓に弟子入り。

入門後、師匠と兄弟子たちに不満はたまるものの、師匠を勝手に代えられない世界のため、十分に力を発揮できず落語家として大成できなかったとする、元三遊亭窓太の無念さをぶつけた落語界暴露本です。

私怨、私憤の叙述で1冊書き上げたもので、ネットでは、恩知らずぶりや、自分勝手な暴露を叩かれまくっています。

私も読んだ当初は、単純にそう思いました。

ただ、気になったのが、当時、版元がつけたコピーです。

私怨と私憤満載の不思議本」というものでした。

何のヒネリもなく、思いっきり直球勝負の「私怨と私憤満載」なのに、どこが「不思議」なのだろうと思ったわけです。

でも、最近、もう1度読みなおし、その「不思議」とは、もしかしたらこうではないか、ということが思い浮かびました。

「不思議」の真相とは……


版元がいう「不思議」は、2つ考えられます。

ひとつは、著者が指摘する「師匠を選べない」という落語界の仕組みについてです。

もうひとつは、同書は暴露本のはずなのに、著者の立場や価値観から一方的に不平・不満・悪口雑言などを書かれた人たちが、著者の意図に反して(?)、いい人、ほほえましい人格に感じられることです。

たとえば、最初の師匠の三遊亭圓窓がそうです。

三遊亭圓窓は、著者が通い弟子であるにもかかわらず、朝ごはんをふるまい、箸の上げ下ろしから注意をしたそうです。

そして、いつも何か文句を言いながらご飯を食べるので、著者はいたたまれず、いつも一膳でやめ、そのかわり来る前に立ち食いそばでお腹を満たしたと書かれています。

私は、何の義理もコネもない、いつ逃げ出すかもわからない押しかけの通い弟子に、朝ごはんの面倒まで見る三遊亭圓窓を、悪い人には思えませんでした。

まあ、著者にとっては、楽しくない食事は嫌だったのかもしれませんが、弟子としての修行なら、なかなか興味深いものだと私は思いました。

師弟関係というのは、学校や塾の先生とは違うのです。

芸そのものを教えるというより、日常生活や人格全体で教えてくれる、もしくは盗むものではないかと私は思うのです。

たとえば、脚本家の鎌田敏夫氏が、井出俊郎氏の住み込み弟子になったとき、脚本の書き方など技術的なことはほとんど教えなかったが、食事や日常の会話などで、生き方やふるまいなど示唆を与えてくれたと自著で述べています。

それに、師匠が不愉快だから飯がまずいというのなら、師匠を楽しくしてあげるのも弟子としての修行のうちでしょう。

それがいいか悪いか、合うか合わないかはともかくとして、落語界の師弟関係というのはそういうもので、著者はそれについていけなかったわけです。

やはり有名大学(青山学院大)を出た三遊亭楽太郎(現円楽)については、キザで上から目線の威張っている人のような描き方をしています。

しかし、それは自分だって上智を出ているというプライドが言わせているように私には感じられました。

むしろ、その時点ですでに斯界の注目を集めていたホープが、無名の新弟子に声をかけるという行為に、「楽太郎、意外といいやつじゃないか」という優しさを私は感じました。

実際に読んでいただかないとなかなか伝わりにくいのですが、一事が万事、こんな感じです。

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まとめ


ですから、ネット民が同書を叩く「恩知らず」は字面ではそのとおりであり、否定はできません。

ただ、著者が自己正当化だけの悪い人だったかというと、そんなことはないと思うのです。

なぜなら、自分の視点ではあるけれど、出来事を正直に書いているからこそ、書かれている人の人柄も読む者は感じることができるからです。

作品としての賛否はどうあれ、事実に基いて正直に書いたものなら、そこからはちゃんと真実を察することが出来るのだということがわかりました。

ですから、暴露本としての社会的な意義や公益性はあったのではないでしょうか。

そして、今はむしろ、自分が落語界でモノにならなかったことを自己批判して、あえて当時の自分をデフォルメして独善的な悪人という視点で書き、師匠や先輩へのやオマージュとしているのではないか、とさえ思っています。

要するに、今で言うツンデレです。

みなさんも、昔読んだ時は、「なんだこれは」と思った本が、時間が経過して改めて読んでみると、新たな発見があった、ということはありませんか。

一方的な断罪でも、読んだ後にほのぼの感が残るような暴露本。

私もそんな器用な書き物をしてみたいものです。

落語家見習い残酷物語

落語家見習い残酷物語

  • 作者: 金田一 だん平
  • 出版社/メーカー: 晩聲社
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 単行本

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nice!(328)  コメント(12)  [編集]

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コメント 12

yamatonosuke

中古で1万円ですか。
読んでみたいですが^_^
by yamatonosuke (2016-07-26 00:20) 

ナベちはる

値段からは分からない価値、知ることができたら楽しいだろうなぁと思います☆彡
by ナベちはる (2016-07-26 00:29) 

関谷貴文

古本に1万円て・・
アンチ人気ありそうですね。
でも掲示板は袋叩きですがw

by 関谷貴文 (2016-07-26 01:29) 

pn

なんで尊敬していた落語家さんの所に行かなかったのかが聞きたいですね。師匠を変えられないシステムは落研居るくらいだから知っていても良さそうですが(^_^;)
by pn (2016-07-26 06:03) 

やおかずみ

ご訪問ありがとうございました。
by やおかずみ (2016-07-26 09:31) 

tachi

一万円もする古本ですか
1990年代の本でもそんなに高くなるのですね。

厳しい環境で競争して、教えてくれる人に礼儀をもって
接するのは大事ですね
でも、最近は子供のまま大人になってしまい理不尽なことを
平気で言う人も多いので難しい話ですね
by tachi (2016-07-26 10:10) 

yakko

お早うございます。
メールとインターネットは繋がりましたが ブログは上げられなくなりました。一方通行になりますがよろしくお願い致します。
by yakko (2016-07-26 10:56) 

えくりぷす

この本だけでなく、いっぷくさんも紹介されていた「御乱心」でも、20万部以上売れたというのに古本で3700円していて、読もうか迷いますね。

落語家の修行時代が厳しいのは当たり前だと思います。
現在の円楽からも古今亭菊之丞からも、もっと理不尽なことで師匠に毎日怒鳴られたという話も聞きましたが、師匠との間の愛情を感じました。

by えくりぷす (2016-07-26 11:12) 

makkun

『落語家見習い残酷物語』のタイトルだけで
色々と面白そうな事が想像できますね~
修行を重ねるに当たっての師弟関係は
特にこの業界は重要な気がします・・。
因みに今は亡き私の知人が柳家小三治師匠と同級生で
プライベートの集いに何回か同席させて戴きましたが
とても楽しかった事を思い出しました・・。
by makkun (2016-07-26 15:07) 

yossy

暴露にもいろんな形がありますね
暴くもの、人の足を引っ張るもの^^;
知事選は後者ですね><
by yossy (2016-07-26 15:20) 

うつ夫

著者ご本人は現在どうされているのでしょう。
by うつ夫 (2016-07-27 00:38) 

いっぷく

みなさん、コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、身勝手な暴露本だったのでしょうね。
この記事の参照数は多かったのですが、
ツイッターで検索してもツイートしている人はいらっしゃいます。
出版社も書籍の復刻を検討されてもいいような気がしますね。
by いっぷく (2016-07-28 00:19) 

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