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入江雅人「観客の咳に苦言」で立川談志「独演会居眠り訴訟」思い出す

入江雅人が、出演中の舞台で観客の咳にツイッターで苦言を呈したことが話題になっています。演者が観客に対して「それは言ってはいけない」と批判する人もいますが、私はそうは思いません。演者の権限や、客がどこまで権利を主張できるのか、という問題は、98年の立川談志独演会居眠り退出訴訟を思い出します。

私は、その舞台のことは知らないし、ツイートの応酬にも“参戦”していないので、報道(スポニチアネックス 4月26日17時6分配信)から引用します。

入江雅人が出演中の舞台『夜中に犬に起こった奇妙な事件』で、
この時期の舞台は芝居中に客席のあちこちから咳をする音が鳴り止まないものなんだろうか?静かなシーンが多い芝居でオープニングからラストまでゲホゲホ、ゴホゴホと聞こえてくるのは、やりきれない。出来れば気合と飴と咳止め薬で乗り切ってほしい。体が温まって出る咳は上着を脱ぐとか
とツイート。

それに対して、「まだ花粉の時期でもあるし、私も咳でタオルで必死で抑えました。が、出るものは出ます。残念過ぎるお言葉です」と返信があると、入江雅人も「『出るものは出ると』いうのは何とも残念な言葉」とリプライしたという話です。

後追いになりましたが、ツイートも確認しました。

>>@iriemasato

要するに、やりとりに関する賛否の本質は、

観客はどこまで主張できるか、見ていただく側はどこまで客に注文をつけられるのか

という話ですね。

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立川談志の場合はどうだったか


このブログ「戦後史の激動」では、「立川談志が客を許せなかったとき……」で書きましたが、今回のやりとりは、「立川談志独演会居眠り退出訴訟」を思い出します。



ざっと振り返りますと、98年12月17日夜、立川談志の独演会が飯田市の公民館で行われましたが、始まった直後に会社役員が居眠りを開始。

立川談志は最初、「お父さん、寝ちゃって大丈夫かい」などと声をかけていたものの、会社役員が居眠りをやめなかったため、「やる気なくなっちゃったよ」と高座を降りてしまった。

主催者が会社役員に退出を求めると、会社役員は「金を払ったんだから何をしてもいいだろう」などと言い帰宅。それだけでは収まらず、「落語を聞く権利を侵害された」などと裁判(10万円の損害賠償)まで起こしました。

居眠りしたくせに、「権利を侵害」もハチノアタマもないと思うのですがね。

案の定、99年4月21日の長野県飯田簡裁(内田義厚裁判官)は、「居眠りは演者の意欲をそぎ、演目の続行に重大な障害になることがある。退出を求めた主催者の行為は社会通念上、相当と認められ、違法性はない」と、会社役員の主張を退けました。

立川談志のコメントは、「訴えた人は言語道断。寝たことに怒ったのではなく、お客さんとの空間を壊されたことに腹が立った。裁判長には、客と芸人の空間を大切にしてくれたことに感謝している」(「毎日」99年4月21日付)とのことでした。

私はそもそも、訴権を乱用する人間に理解を示せません。

裁判などという後ろ向きな営みは、結局誰の得にもなりません。

10万円の賠償ごときでいちいち裁判をするのは、メンツや感情にほかならず、そんなことで訴訟を使うなんて、トンデモないことだと思います。

そして、この会社役員が根本的に勘違いしているのは、

会社役員は、独演会で落語の“聞く権利”を買っただけであり、落語家を含めた高座のあらゆる権限を買い占めたわけでもなければ、他の観客に不都合が生じてもよい排他的な立場にあったわけでもありません。

ですから、居眠りによって「演者の意欲をそぎ、演目の続行に重大な障害になる」なら、退出を求められるのは当然のことだと思います。

書籍やソフトウエアなど著作物だって、お金を払った者は、それを読んだり使用したりする権利を買っただけで、たとえば、それを無断でコピーして再配布すれば著作権侵害です。

「オレがゼニ出して買ったんだ。何をしようが自由だ」というわけにいかないでしょう。

まあ、そのデンでいえば、昨今議論になっている、ブログに、レストランの料理を掲載することも、料理人が「これは私の作品で勝手に撮影してはならない。あなたは食べる権利しかない」なーんて言われたら、やっぱり撮影はできないのかもしれませんね。

レストランの料理.jpg

もっとも、そうした杓子定規の法律的な判断よりも、双方の信頼関係や相互理解が大切なので、事前に許諾を得るなど手続きをきちんとすれば、クリアになることかもしれませんが。

話は戻りますが、今回は咳をした観客が、立川談志の時のように強制的に追い出されたわけではなく、演者が、大切にして欲しい“場の空間”を表明したに過ぎません。

それすら否定する観客の気持ちは私にはわかりません。

それで気に食わなかったら、見に行かなければいいだけのことです。

いずれにしても、自分が客の立場に立った時、金を出して「何を買ったのか」ということをきちんと知らなければならない時代になったということでしょう。

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