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『あにいもうと』倍賞千恵子が室生犀星の描く家族を好演

『あにいもうと』(1972年、TBS)をDVD鑑賞しました。当時、1話完結を毎週放送していた『東芝日曜劇場』のドラマです。石井ふく子プロデューサー、山田洋次脚本、主演は渥美清に倍賞千恵子です。つまり、『男はつらいよ』の主演者および脚本家と、一貫してホームドラマに取り組んだ名プロデューサーが組んだ仕事でした。

原作は室生犀星です。

このブログでは、馬込文士村(東京・大田区)にある室生犀星の案内版をご紹介したことかあります。

馬込文士村散策のみち
馬込文士村散策のみち

室生犀星の案内版
室生犀星の案内版

室生犀星は、非嫡出子として生まれて、7歳で室生家の養子になるなど家族縁の薄い出自でありながら、健全に生きようという詩を残しています。

案内板には、家族思いで、子どもの健康を気遣い、家族サービスを怠らない人であると書かれています。

その一方で、「故郷は遠きにありて思うもの」という有名な句を残しており、どんなに懐かしく、そして愛おしくても、不幸な過去は振り返らないという考え方です。

私はそれを、『ゆうひが丘の総理大臣』(1978年10月11日~1979年10月10日、ユニオン映画/日本テレビ)というドラマの主人公、ソーリこと大岩雄二郎と重ねてみました。

ゆうひが丘の総理大臣

『ゆうひが丘の総理大臣』の主人公、大岩雄二郎は、母親に捨てられて養護施設で育った経験があります。

そのため、「不幸は見飽きた」と、他人のことに親身になり、他人の心の痛みがわかる人。とくに身内の確執については解決のためにとことんおせっかいをやきます。

そして、自分を捨てた実の母と会っても、恨み言も言わないかわりに、自分が息子であることも名乗らず別れました。

これはたんに私個人が「似ている」と思っただけでなく、1979年4月25日放送の回(総理先生しっかりして!)において、漫画の本しか読まないはずのソーリが、室生犀星が書いた『朝を愛す』の一節を、スラスラと諳んじるシーンが出てくることから、制作側にそうした意図があったのだろうと思っています。

室生犀星の案内版
ソーリが『朝を愛す』の一節を諳んじる『総理先生しっかりして!』より

ちなみに、『ゆうひが丘の総理大臣』のソーリには、親に捨てられて別れ別れになった妹もいました。

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激しい気性ながら思いやりと信頼に満ちた家族


前置きが長くなりましたが、今回の『あにいもうと』は、タイトル通り、兄と妹の複雑な思いを描いています。

『あにいもうと』より
『あにいもうと』より

「あに」は渥美清。「いもうと」は倍賞千恵子です。

そして、脚本は『男はつらいよ』の山田洋次

ただ、『男はつらいよ』における、車寅次郎とさくらの関係は、ごくふつうの「おもいやり」です。

今回の『あにいもうと』は、お互いの生活や人間性を口汚く罵るだけでなく、手まで出てしまうような厳しさがありながら、その行為自体に肉親ならではの思いやりがこもっているという、複雑な関係が描かれています。

舞台は、東京大田区六郷。石を詰みあげて、用水路をつくる人夫の頭である赤座(宮口精二)には、妻のりき(乙羽信子)と3人の子ども、伊之吉(渥美清)、もん(倍賞千恵子)、さん(岡本茉利)がいました。

倍賞千恵子の演じる、もん(『あにいもうと』より)
倍賞千恵子の演じる、もん(『あにいもうと』より)

そのうち、もんは奉公先で書生と関係して妊娠しましたが、書生は実家に帰ってしまいました。

以来、もんは水商売で身過ぎ世過ぎをしながら、気まぐれでときどき実家に帰る生活をしていました。

兄の伊之吉は、もんが帰ってくるたんびに悪態をつき、もんにとっては触れてほしくなかった書生のこともネチネチとやります。

りきは、「昔はあんなに仲が良かったのに、どうしてこんなふうになってしまったのかねえ」と嘆きますが、赤座は、それが伊之吉なりの思いやりなんだといいます。

つまり、自分が悪役になって悪態をつくことで、家族はもんに味方をするだろうから、もんが家族から批判的な目で見られなくなるというのです。

なるほどなあ、そういうかばい方もあるのか、とは思いましたが、一方で、でも何もそこまで言わなくても、とも思いました。それほど悪態は厳しいものです。

これは、家族に恵まれなかった思いを、作品にぶつける室生犀星のささやかな「毒」ではないかと思いました。

もんは、室生犀星の養母がモデルであったといいます。養母にはいろいろ思うところがあったらしいですが、その複雑な思いを書いたのでしょう。

書くことは、自己救済であり他者献身であるとはよくいったものです。

そんなある日、もんによると病気療養で実家に帰っていたという書生が、赤座家を訪ねてきました。

「自分の気持が済まないから」もんに詫びたいということと、いくらかのお金を持ってきていました。

もんが留守にしていましたが、赤座が対応。話を一方的に切り上げて“怒り”を表現しましたが、手荒なこともせず、そっと帰しました。

それを見ていた伊之吉は、人のいない裏道で書生を引き止め、「自分の気持が済まないから」詫びるという書生に、「お前はいつも自分の気持ちしかないのか」となじって体を小突いて倒します。

しかし、暴力もそこで終わりで、帰りの道まで教えて別れます。

その後、またふらっと帰ってきたもんに、伊之吉は「無抵抗な書生を半殺しにした」と大げさに言い、もんとはつかみ合いの大げんかとなります。

原作では、ここで相当の紙数をさいて喧嘩しますが、ドラマでも倍賞千恵子の独壇場です。

しかし、それほど激しい喧嘩をしても、もんはまた戻ってきます。

父親は、そうしたいさかいを止めたり、オロオロしたりしません。

激しい気性ながらも、思いやりや信頼で支えられている家族である、ということが描かれているわけです。

石井ふく子Pの描く世界としては、いささか過激な家族だったかもしれませんが、『男はつらいよ』とも『ありがとう』とも一味違う家族の姿が描かれていて、興味深く鑑賞出来ました。

最後に全くの余談ですが、先の『ゆうひが丘の総理大臣』の音楽担当だった小六禮次郎と、本作主演の倍賞千恵子が夫婦というのも、多少苦しいものの“室生犀星つながり”というインネンめいた感じもしてしまいます。

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