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上田馬之助、『金狼の遺言ー完全版ー』に見る「いい人」の深奥

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上田馬之助さん(本名:裕司(ひろし)、1940年6月20日~2011年12月21日)の命日です。『金狼の遺言ー完全版ー』(辰巳出版)という上田馬之助が著者である書籍を読みました。昭和のプロレスファンとしては、猪木クーデター事件における上田馬之助の振る舞いに対する、上田馬之助の言い分が気になりました。



上田馬之助。覚えてらっしゃいますか。

日本人でありながら、金髪にして、タイガー・ジェット・シンと組んで暴れた頃は、ガムのCMにも出演していました。

ガムのCM
Youtubeより

上田馬之助が、ファンの間でいわれていたことは、

1.上田馬之助は人格者である
2.上田馬之助は本当は強いが、華がないので中堅に甘んじ、金髪にしてからブレイクした

ということです。

「2」については、道場を見ていないので、正直なところわかりません。

ただ、本書『金狼の遺言ー完全版ー』を読むと、残念ながら少なくとも「1」に対しては、疑わしい点があります。

では、「人格者」という巷間の評価を完全否定できるかというと、それもまたできません。

上田馬之助が、人との付き合いを大事にするので、レスラーからも慕われ、愛想を振りまける人でもないのに、タニマチにも恵まれていたことは、これまでのレスラーの証言や書物などから明らかです。

つまり、「いい人」ではあるのです

それゆえ、私が上田馬之助に感じたのは、人にありがちな、「いい人」であるがゆえの「弱さ」です。

密告、そして逆恨みか……


毎年12月になると、昭和のプロレスファンは、ある事件を思い出します。

1971年、当時、ジャイアント馬場とのコンビで、BI砲といわれ、プロレス黄金時代をきわめていた一方の雄であるアントニオ猪木が日本プロレスを会社乗っ取りの廉で除名されました。

翌年には、ジャイアント馬場が日本プロレスを退団。

2人はそれぞれ自分の団体を作って袂を完全に分かちます。

アントニオ猪木の、当初の言い分はこうだったといいます。

「会社の経理にきっと不正がある、儲かっているのだから、汗と血を流しているレスラーがもっと金をもらってもいいはずだ。だから今の幹部をやめさせて、レスラーが潤う会社をつくろう」

アントニオ猪木は、上田馬之助を通じて、ジャイアント馬場に話に乗るように依頼したといいます。

最初は、ジャイアント馬場も賛成したものの、猪木の計画では、新社長は猪木の後援者であり、怪しい計画ではないかと感じ、巡業で移動中の新幹線で上田馬之助を問いただしたところ、猪木乗っ取りの「クーデター」であることを確認。

上田馬之助は馬場にすべてを打ち明けると、会社の幹部にも密告。

そこで、他のレスラーたちも「乗っ取り」に反発。

猪木を襲撃する話まででてしまい、猪木は仮病で入院。

新妻の倍賞美津子が、日本プロレスの事務所に行って、チャンピオンベルトの返還と欠場届を提出しました。←猪木自身、仮病だったことは認めています

シリーズ終了後に、アントニオ猪木は除名された、という経緯です。

事件で、アントニオ猪木を裏切って、計画を会社に密告したのが上田馬之助であるとの認識で、当時の関係者の見解はすべて一致しています。

ところが、本書によると、上田馬之助は、自分が密告した裏切り者になっているが、本当の密告者はジャイアント馬場である、と述べているのです。

本書では、「当時の社内の状況ではとてもそのことを言える状態ではなく、自分が罪を被らざるを得なかった」として、「証拠となるメモも残っている」と言い張っています。

しかし、ジャイアント馬場は首謀者ではなく、上田馬之助から計画を聞かされて驚いて降りたわけです。

猪木の計画を知っていたのは、レスラーでは上田馬之助しかいなかったので、馬場を含めて、上田以外のレスラーの密告というのはありえないのです。

かりに馬場が、上田から聞いてから会社に密告したとしても、そもそもその内容を馬場に密告したのは上田馬之助ですから、上田が猪木を裏切り、他のレスラーを騙していたことにかわりはないのです。

すでにジャイアント馬場も亡くなって「死人に口なし」で、事件から40年以上たって、真実を暴露しても今更誰も困らないのに、当時の関係者で、「実はそうだった」と、上田馬之助に同意する人は誰もいません。

それどころか、当時レスラーだった桜田一男は、上田馬之助が達筆な密告書をレスラー全員がいる前で芳の里淳三社長に手渡して読み上げたなど、むしろ上田馬之助の密告説を裏付ける新証言を行っています(http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar649182

そもそも、上田馬之助のいう「証拠となるメモ」とやらも、結局出てきていません。

しかも、桜田一男証言では、その密告書の中身でわかったこととして、「猪木さんと上田さんが会社を乗っ取ろうとしてたんだよ」と述べており、密告どころか、上田馬之助はアントニオ猪木の立派な共犯者だったというのです。

つまり、上田馬之助はジャイアント馬場を騙して、アントニオ猪木の計画に協力させようとしたわけです。

しかも、共犯者でありながら、ジャイアント馬場に移動中の新幹線で詰問されると、すぐに全部“うたって”しまい、自分の立場が悪くなったので、今度はアントニオ猪木を裏切って、自分は日本プロレス側に寝返った(達筆の密告書提出)とすると辻褄が合います。

それでは、アントニオ猪木からも、ジャイアント馬場からも、信用されるわけないでしょう。

どうして、“人格者”が、晩節を汚すような書籍を遺したのか、大変残念に思います。

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「弱い人」は「怖い人」


思うに、上田馬之助がもし本当に「悪い人」だったら、ジャイアント馬場に詰問されても、目的を達成するまでは、騙し続けていたでしょう。

そこで、ジャイアント馬場や会社にばらしてしまったというのは、上田馬之助は、善意でいうと「根はいい人」、客観的に見ると「気が弱い人」ではないかと思います。

でも、「弱い人」というのは、「悪」を貫けない一方で、真相が何であれ、いったん事を起こした以上、自分がすべてをかぶる、という「強さ」もありません。

だから、あとになってから、亡くなった人のせいにするようなことをしてしまうのです。

ジャイアンと馬場が生きているうちならともかく、「口なし」になってから責任を押し付けるのは、真相がなんであれ、卑怯だと思います。←しかも自分がほのめかした「証拠のメモ」とやらもなし

これを書いたのは、7回忌も過ぎた人の吊し上げをすることが目的ではありません。

日本プロレス史上の一大事で、名指しで責任問題を発表する以上、読者が真偽の議論をすることは、人の道を外れた行為ではないでしょう。

つねづね私が思うのは、人間、「性善説」「性悪説」とありますが、「性弱説」という見方があってもいいのではないかということ。

それから、世間一般で言われる「いい人」というのは、往々にして、このような「弱さ」=「怖さ」を持っているのではないか、ということです。

ですから、私は、皮相的な「いい人」という評判の人、とくに気が優しいといわれている「いい人」は、申し訳ないのですが心の中では警戒しています。

みなさんのまわりに、そういう「いい人」って、いませんか。

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  • 作者: 上田 馬之助
  • 出版社/メーカー: 辰巳出版
  • 発売日: 2012/08/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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末尾ルコ(アルベール)

上田馬之助、『金狼の遺言ー完全版ー』に見る「いい人」の深奥・・・こんなCMがあったんですね。知りませんでした。タイガー・ジェット・シンとのコンビ全盛期は、入場シーンだけでお金取れましたよね。シンと肩組んで出てくるあの入場を超える入場はいまだ思い浮かびません。毎回パニック映画観ているようでした。ちょっかい出してくる観客をシンが殴っていた場面も何度かテレビで見た覚えがあります。そう言えば少々脱線しますが、弟の職場に、プロレスファンだったけれど、ポーゴか誰かに(←記憶曖昧です 笑)プロレス会場で殴られてファンを止めた(笑)人物がいたと聞きました。まあこれは伝聞のお話ですから本当かどうか分かりませんが、あり得そうなエピソードですよね。

>ファンの間でいわれていたこと

1に関しては、わたしがかつて「プロレス界の真相」的な本をあまり読まず、「レスラー評」「試合評」の方に偏っていたこともあり、あまり知りませんでした。「2」の噂は有名でしたね。だからこそイリミネーションマッチで前田日明と初めて対峙した時の興奮度は尋常ではなかったのですが、結局何もせずに両リンになっちゃいましたよね。あそこで上田がシュートを仕掛けて、前田を極めちゃったら神話になっていたでしょうが、無い袖は振れなかった感がありました。
上田の発言で印象に残っているのが、「シュートなんて言葉、簡単に使っちゃいけない。それなら、銃で撃ってどうこうという話にまでなってしまう」と、だいたいそんな意味のことを言っていました。佐山がしきりに「シュート」という言葉を持ち出した時期だったと思います。けれど考えてみれば、あのポッコリお腹でそうそう強いはずはないという気もします。体格的にはそこそこ見栄えはしましたが。
猪木クーデター事件というのは、わたしはほど詳しくはないのですが、ほとんど松本清張の昭和ミステリーのような風格がありますね。大きな闇を感じさせるところがいつまでも関心を引いて止みません。ただわたしの場合は全日本プロレスからファンになったという浅さがあって、猪木クーデター事件もリアルなイメージよりも歴史的出来事という印象が強いのです。

>新妻の倍賞美津子が

このエピソードを見ると、やはり倍賞美津子の胆の据わった性格がよく分かりますね。ちゃらちゃら(笑)野球選手やサッカー選手と結婚するような芸能人にはできそうにないですね。それにしても猪木が仮病を使うとは、余程きな臭い雰囲気だったのですね。わたしそういうエピソード、大好物なのですが(笑)。

>アントニオ猪木からも、ジャイアント馬場からも、信用されるわけないでしょう。

なるほどです。それを考えると、後年上田が国際、そして新日でも全日でも活躍していたって凄い話ですよね。清濁すべて呑み込んでいたと言いますか、そうせざるを得ない状況でもあったのでしょうが。

>そういう「いい人」って、いませんか。

「性根が腐っている」と思しき人物は少なからずおりますが(笑)、現在「いい人」ですぐに連想するのは、件の「宇宙気学」にはまって振り子ふってるW君です。まあ「いい人」以前に、「あまりに無知」というのはありますが。

猪木についてちょっと以前ですが、こんな記事があったんですね。

https://www.hochi.co.jp/fight/20181025-OHT1T50076.html


今回の「腰の手術」以前にも、かなり大変な治療をいろいろやっているということで、それを思えば、今までずっといかにも元気そうに振舞っていた姿はやはり凄いなあと再認識してしまいます。  RUKO


by 末尾ルコ(アルベール) (2018-12-21 03:44) 

pn

あー、確かに弱い人=良い人かも。弱さゆえの自分に対する甘さ、優柔不断そして自己保身。あー、弊社に居るわ(笑)
by pn (2018-12-21 06:22) 

ヤマカゼ

見た目で人は判断できないですね。
by ヤマカゼ (2018-12-21 06:38) 

Rinko

通っていた大学のプロレス同好会のメンバーが開いたお好み焼き屋の名前が「馬之助」で繁盛していました。それで名前は知っていたのですが、そういうドロドロっとしたところもあったんですねー。
by Rinko (2018-12-21 07:52) 

Take-Zee

こんにちは!
よく覚えています!
この人以降のレスラーはあまり記憶ないです。

by Take-Zee (2018-12-21 15:53) 

ヨッシーパパ

そんなレスラーもいましたね。
あまり、印象には残っていません。
by ヨッシーパパ (2018-12-21 19:34) 

チナリ

こんばんは。

上田馬之助さんのことは名前くらいしかわからないのですが、もし自分が上田馬之助さんの立場になってしまった場合、どうするだろうと考えてしまいました。

自分が「いい人」なのかは自分ではわかりませんが、「弱さ」=「怖さ」は持っているような気が自分ではします。

自分は、いっぷくさんが書かれていらっしゃるような「いい人」なのかもしれません。

by チナリ (2018-12-21 23:27) 

ナベちはる

「いい人」の言葉には、気を付けないといけないですね。
by ナベちはる (2018-12-22 01:25) 

犬眉母

人の評価は難しいですね。

by 犬眉母 (2018-12-23 06:27) 

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