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『故郷』高度経済成長期のひずみと瀬戸内海の自然美を描いた名作

『故郷』(1972年、松竹)を鑑賞しました。瀬戸内海の倉橋島(広島県呉市)に住み、砂利運搬船を動かして生計を立てている一家が、暮らしを維持できなくなり、尾道の造船工場に日給月給で転職する話です。高度経済成長期のひずみと瀬戸内海の自然美を描き切っています。主演の倍賞千恵子の役名は民子。山田洋次監督、倍賞千恵子主演で、やはり民子を名乗った2作をあわせて“民子三部作”のひとつといわれている作品です。

『故郷』(松竹)より
『故郷』より

ここのところ、『喜劇一発大必勝』『喜劇一発勝負』と、山田洋次監督の過去の怪作をほじくり返してきましたが、今回は過去の作品の中でも名作の誉れ高いものです。

この当時の山田洋次監督は、年2回の『男はつらいよ』の合間に、倍賞千恵子主演の作品を撮っていました。

『家族』(1970年)、今回の『故郷』(1972年)、『同胞』(1975年)などです。

『家族』は、映画館ではなく、数年後にNHKで放送されたときに観ました。

脚本もBGMも地味なのに、笠智衆の末期や、倍賞千恵子の性格に対する苦悩の表情などが何ともリアルで、当時子どもでしたが、何日も重い余韻が残りました。

今回の『故郷』は、瀬戸内海の小島である倉橋島が舞台です。

やはり、派手な演出もなく淡々とストーリーは進むのですが、ずーんと心に響くものがあります。

ネタバレ御免のあらすじ


瀬戸内海

倉橋島の石崎家は、精一(井川比佐志)、民子(倍賞千恵子)の夫婦に、精一の父親(笠智衆)と娘の家族。

代々島の住人で、姉(阿部百合子)夫婦は近所に、弟夫婦(前田吟、田島令子)は広島市に住んでいます。

精一は、愛想はないのですが、家を守り、父親の面倒を見ながら、先祖の代から行ってきた砂利運搬船による石運びを生業としている、親孝行、先祖孝行な人間です。

魚の行商をする松下さん(渥美清)は、朝鮮からの引き上げ者で両親もすでに亡くなるなど、親も故郷もないので、そんな石崎家が好きで、いつも立ち寄って夫妻が帰ってくるまで父親や子供の相手をしています。

ところが、15年乗り続けた持船のエンジンの調子が悪く、老朽化しているので早晩別の故障も出るから直すだけ無駄と言われています。

姉らは暗に廃業を勧めますが、精一はいったんはそれを強く拒否。

しかし、どうにもならないことはわかっていたので、結局弟の勧めで、尾道にある造船所の日給月給の工員の面接を受けました。

それを松下さんに報告すると、松下さんは、「船長から労働者になってしまうのか」とポツリ。

精一が、「船長も労働者も同じじゃ」というと、松下さんは「いや、違う」ときっぱり。

何が違うかというと、労働者の方が給料が高いといいます。

えー、船長は1200円(今の5000円ぐらいか)の日給月給以下なのか。

そりゃ、船のリプレイスにお金が回るわけがありません。

結局、夫妻は父親を島に残して尾道に転居。

島の人達が総出で紙テープを持った船の別れでラストです。

記録映画


井川比佐志が船長、倍賞千恵子が機関長になって、砂利を船で救い、運び、沈めるまでの一部始終を映像に残しています。

このときの倍賞千恵子には、なんというか、色気を感じました。

倍賞千恵子
『故郷』より

生活につかれた、でも暗くしょぼくれているわけではない、庶民の鑑のようなたたずまいでした。

井川比佐志の、終始朴訥とした演技もよかったです。

『喜劇大安旅行』(1968年、松竹)という映画で、SL・C58の機関士を演じる伴淳三郎が、トンネルや坂道を必死に石炭をくべながら走るシーンを子供の頃見た時感動しましたが、今回の砂利船のシーンもそれと同じぐらい感動的でした。

人が一生懸命働く姿は美しいですね。

記録映画のような資料的価値も十分です。

船の仕事の最後の日、井川比佐志が、「何が悪いんかのぅ」と倍賞千恵子に問いかけるシーンは、先祖が何代も前から住んでいた故郷を、捨てざるを得なかった無念さが淡々と伝わってきます。

親孝行で、家と家業を守って愚直に働いたって、そんな人生しかない。

砂利船運搬業でなくても、そういう不条理な境遇の人は、たくさんいるのではないでしょうか。

人生の、そして世の中の不条理さを嘆く台詞は非常に重く感じました。

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